ポケットに婚約指輪

彼の視線が痛い。
冷静に追求してくるから余計逃げ場がないというか。


「信じてくれますか?」

「信じるよ? でも知りたい。どうして舞波とそんなことになったのか」


いつしか足が立ち止まってしまう。
彼は私の手を取ると、人気のない路地に入った。

表通りはとてもすっきりしていて綺麗なのに、少し奥に入ると、途端に壁とかも薄汚れていて少し不安になる。


「舞波さんが、……ヨリを戻したがったんです」

「あいつ、最低だな」


小さな舌打ち。司さんのそんな行動は珍しい。


「お断りはしたんですけど、……本当は揺れてました。その時はまだ、彼に未練があって」

「うん」

「資料室で一緒になって、強引にキスされたときも拒めなかった」

「……ふうん」


そう。流されてばかりで。
一時の愛情欲しさに、とんでもないことをしでかすところだった。


「でも、司さんがいてくれたから」


司さんの手がピクリと動いた。
今だ私から離されない手は、すっと握っているからか少し汗ばんでいる。

「私のこと、忘れずに何度もメールしたり声をかけてくれたりしたから。だから私、彼を吹っ切ることができたんです。司さんがいなかったら、きっと寂しさに負けて不倫するところだった」

「……菫」


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