ポケットに婚約指輪

彼のもう一方の手が、私の頬をさする。硬い親指の先が、唇をなぞった。


「どんなキスされた?」

「え? ……むっ」


返答する間もないうちに、彼の唇が私のそれを塞いだ。軽く触れて離される。吐き出された息が、濡れた唇の上を滑った。


「こんなの?」


見つめる彼に首を振ることで返事をする。
すると再び彼の唇が落ちてきた。

今度はゆっくりと重なり、下唇を舌で弄ばれる。吐息がもれ出た瞬間に、彼のそれは私の口内へと侵入してきた。
上唇を舐め、口内を辿られてるうちに舌が絡む。酷く官能的なキスに、立っていられなくなる。

私の膝が崩れそうになっているのに気づいた彼は、繋いでいた手を離して、私を支えるように抱きしめてくれた。


「こんなの?」

「はっ、や、司さんの方が凄いです」


言ってから恥ずかしくなる。私ってば何を言ってるの。

ふらつく私の肩を抱くと、彼は突然歩き出した。


「行こう」

「え? どこに?」

「俺の部屋。やっぱりお仕置きしないとすっきりしない。彼女が他の男にこんなキスされたとか、ちょっと我慢できないな」

「でも、司さんとお付き合いする前ですよ?」

「それでも駄目」

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