ポケットに婚約指輪
片目を瞑って笑ってみせる。
どうやら本気で怒ってるわけではないようだ。
「いい? 菫」
「……」
「俺の部屋、来る?」
何を聞かれているのか分からないほど子供じゃない。
キスで何かのタガが外れたのか。
今日まで全くのプラトニックだった関係が、急速に動き出す。
私は無言で頷いて、彼の手を握った。
すると司さんは納得したように、表通りまで出てタクシーを捕まえようとする。
高鳴る心臓に翻弄されながら、心のどこかで美亜さんの言葉が引っかかっていた。
“里中さんの好みのタイプとは違うかなって”
変わった私で、本当にいいの?
あなたは本当に私のことが好き?
だって分からない。
私のどこを好きになってくれたの?
彼の心が見えないまま、私は彼に抱かれてしまっていいの?
感じてしまった疑問が、心の中からいつまでも消えない。