ポケットに婚約指輪
なのにどうして私を選んだの?
自信がなくなってくる。
私で本当にいいの?
それとも一瞬の気の迷いなの?
5階に上がり部屋に入れてもらう。
ちゃんと玄関スペースがあって、ドアを隔ててキッチンがある。
お部屋もどうやら二部屋くらいあるようだ。
「お茶でもいれようか」
「あ、私がやります」
小さな食器棚から湯飲みを探す。
その中に、小鳥やハートが描かれた可愛らしいマグカップを見つけた。
どれとペアになっているわけでもないカップで、周りの食器とも雰囲気が違う。
これは司さんじゃない。女の人が選んだものだ。
直感がそう告げる。
そしてすぐ思い出すのは、彼の元婚約者だ。
婚約までしてたなら、当たり前のようにこの部屋に出入りしていたんだろう。
そう思って部屋を見渡すと、どことなく女性を感じさせるポイントがいくつかあった。
このマグカップや、ハンガーの中に埋もれているスカーフ。無造作に置かれたままの小さなポーチ。
「……司さんの元婚約者って、どんな人ですか?」
「え?」
彼は驚いたように顔を上げる。
そして、私から急須を奪い取るとお湯を入れ始めた。