ポケットに婚約指輪
トイレに行くフリをして、こっそりとやってきたのは営業一課のあるフロア。
早いとこ里中さんを探さないと。
チラチラと中を覗いて見るも、営業職は基本外回りが多い。
部署内もなんだか閑散としている。
「出直すか……」
「誰か探してる?」
私の小さな呟きに、予想外に背中方向から返事が来た。
驚いて振り向くと、私より背の高いガッチリとした男の人が立っている。
その表情は柔和で、しっかりした体格とはギャップがある。
「里中さん……」
「え? あ、ごめん。誰だっけ」
あの日と変わらない姿を見せる里中さんは、最高の自分を作り上げたあの日の私と、今の地味なOLでしか無い私を同一人物だとは思っていないらしい。
私は苦笑して、ポケットからリングケースを取り出した。