ポケットに婚約指輪
遠巻きに見ている司さんを手招きすると、彼はすぐに私の隣に来てケースを覗き込む。
「いいのあった?」
「司さんが選んでくれたものをつけたいです」
服の裾を掴んでそういうと、司さんはぎょっとしたように私を見る。
「俺が選んでいいの?」
「あなたのものって思えるものが欲しいから」
そう言うと、頬を緩ませる。
愛されたがりの彼が選ぶその指は、何箇所かさまよったあと、私が気に入ったものの前で止まった。
「誕生石はペリドットだったっけ。緑が似合うもんな。うーん。これかな」
「うん。これ可愛いです」
彼が店員さんに申し付け、ケースの中からペリドットのあしらわれたネックレスを取り出してもらう。
「じっとしてろよ」
自分でつけようかと伸ばした手を制されて、器用にネックレスの金具を外した彼が、私の首へつけてくれた。
あまりにも照れくさいから、首の辺りが桃色になるんじゃないかしら、なんて変な心配までしちゃう。
彼は正面に向き直って私をまじまじと見て、満足そうに頷いた。
「これにしよう。このままつけさせたいから、ケースだけ入れてもらえるかな」
「かしこまりました。ではお会計の方をお願いします」
お会計する姿を少し離れたところで見ていたけれど、耳に届いた金額は、私が買った負け犬ジュエリーくらいだった。意外と高いけど大丈夫なのかしら。