ポケットに婚約指輪
紙袋を持って戻ってくる司さんに頭を下げる。
「すみません。高いものを」
「いや? 安いもんでしょ。指輪ならもっとする」
「そんなにしませんよ。普段使いの指輪なら1万から2万ので十分」
「そんな指輪買う気無いよ」
私の左手を掴むと、指を重ね合わせるようにして顔を寄せる。
ここはデパートの中ですけれども。
距離が近くはありませんか。
「どうしてもその指輪外すって言わなさそうだから。今度指輪買うときは結婚指輪になるけどいいよね」
「え?」
「だってそれ、婚約指輪だもん」
意地悪そうな色を残したまま、彼はニッコリと笑う。
「え、あの。あの」
「言ったでしょ。俺は独占欲が強いんだよね。菫は最低限何ヶ月のお付き合い期間があればいいわけ?」
「え、あの、一年……とか」
「却下」
「でも。私なんか」
「なんかは禁句って言ったでしょ。ペナルティ1」
「いやちょっと待って下さいよ」
「待てないよ。俺は君が思っている以上には浮かれてる」
かけ出すように店を出て、路地裏に引きこまれて抱き上げられる。
まるで、小さな女の子をあやすように体ごと持ち上げられて、足をバタバタさせながら彼の首に腕を回した。
「や、もう。恥ずかしい」
「俺のものになってよ」
「もうなってます」
「もっとだよ」
なるほど確かに。
司さんは独占欲が強い。