ポケットに婚約指輪


「ったく、刈谷さんは」

「多分冗談だとは思うんですよ。……でもちょっと、断りづらくて」

「なんでさ」

「『私が里中くんを諦めようと努力しているのに、菫は協力しないの?』 なんて言われたら、さすがに気が引けるというか」


司さんは、体をのけぞらせて天井を仰いだ。
ふう、と吐き出された息は予想以上の大きさで部屋の沈黙を誘った。


「……ごめんなさい」


なんて言っていいのか思いつかず、ただひたすら謝る私。


「でも、彼氏がいるってちゃんと言いますし。……ほら、人数合わせで呼ばれたんですって。大体、私が行ったってきっと誰も相手にしないでしょうし」


焦って語る私の手を、彼の大きな手が掴んだ。


「安く見積もるなって言ってるでしょ」

「司さん」

「菫がいたら、いろんな男が目をつけるよ。だから嫌だって言ってるんだ」

「あのでも」


司さんはそのまま私を引っ張って隣に座らせた。彼に触れた右腕は熱く、アルコールの香りが鼻をかすめる。


「わかったよ。でも絶対飲み過ぎるなよ。他の男に気を許すのもダメ。……そもそも、男の方は誰が集めてるんだ?」

「あ、それは舞波さんです」


言った途端に司さんの眉間にシワが寄る。ここまで嫌そうな顔も珍しい……と、考えていたら視界が変わった。一気に持ち上げられて、ベッドに落とされる。


「きゃ」


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