ポケットに婚約指輪

 まだ朝日が顔をだす前にベッドから這い出て、朝食の準備をする。

 まだ司さんは夢の中だ。こうして無防備に眠っている姿は、なんとなく可愛らしい。母性で抱きしめたくなるようなそんな感じ。

 大体準備が整ったところで今日の服を決めようとクローゼットを覗きこんだ。


「これにしようかな。無難だし」


 落ち着いた白色のブラウス。合コンは今日の夜だ。あまり露出のない格好で行こう。


「何してんの」


ボサボサの髪で目をこすりながら、寝起きの司さんが近寄ってくる。


「今日の服。これなんかどうですか」


体に当てたスーツとブラウスを見て、司さんは眉根を寄せる。
そしてクローゼットを覗きこむと胸元の開いた綺麗なクリーム色のカットソーを取り出した。


「こっちの方が似合うよ。俺は別に綺麗な菫を人に見せたくないわけじゃない」

「でも」

「ちゃんとつけてけよ、ネックレス。いっそ刈谷さんとか舞波に見せつけてきて」

「あは」

「なんだったら見えるところに痕つけてもいい位だけどね」

「そ、それは駄目です!」


真っ赤になるとくすくす笑われる。悔しい、からかわれているんだわ。
少し膨れてみせると彼が宥めるように頬を撫でる。


「冗談。それよりいい匂い。菫、料理が上手なんだな。昨日の夕飯もものすごく美味かった」

「本当ですか?」


嬉しくて笑顔全開になると、なぜだかまた笑われる。


「なんで笑うんですか」

「いやだって。……可愛いよね、菫は」


実は馬鹿にされてる? 
悔しくてもう一度膨れて見せようかと思ったけど、顔って近すぎると見えなくなる。

触れた前髪と甘いキスに、私は簡単に宥められてしまった。


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