ポケットに婚約指輪


「他にもいるでしょ、余ってる女の子。それに舞波も来るっていうじゃん」

「だって舞波くんって顔広いんだもん」


 刈谷先輩は完全に司さんを恋愛対象外にしたのだろうか。以前よりも会話が攻撃的なような……。いや、むしろからかって楽しんでいるような?


「大丈夫よ。要は菫の意志次第じゃないの」

「意志はあっても流され体質だからね、彼女」

「司さん、それはヒドイです」


やっぱりそう思われてるのか、と思うと悲しくなる。

司さんはちょっと言い過ぎたと思ったのか、バツの悪そうな顔をしたかと思うと、私に歩調を合わせた。

ちょっとすねてみせるつもりでそっぽを向くと、きゅ、と人差し指が握られる。

肩にかけている私のカバンで見えないような位置で、一緒に歩く刈谷先輩には気付かれていなさそうだ。


「言い過ぎた。でも心配してんだ」

「……わかってます」


こんな行動と言葉にあっさりほだされる辺り、司さんが言ってることはあながち間違いではないだろう。

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