ポケットに婚約指輪
「俺はもう要らないものだから。捨てたいなら捨てていいよ」
「でもこんな高価そうなもの」
「だったら売ればいい。俺は構わないよ」
そこまで言うなら、自分で捨てればいいのに。
何ヶ月もそれを持ち歩いて、それでも自分の手ではどうすることも出来なかったこの人の本音が、サラリと言ったその言葉の裏に隠されているような気がして、私も意固地になってしまう。
「売れません」
「じゃあ捨ててよ」
「捨てれません」
「どうして」
だって。
これは貴方の恋心だ。
私が未だ燻らせてこの胸に潜ませている感情と一緒のもの。
「捨てるものじゃないんです。変わるのを待つしか出来ないんです」
「……」
里中さんはひゅっと息を吸い込んだ。
次に私に向けられる眼差しは、いつもの柔和なものではなく、どこか鋭さを感じさせるものだった。