ポケットに婚約指輪
「それは……そうなんですが」
大体、なんでこんなに急に威圧的なの?
里中さんって実は猫かぶりだったの?
「今携帯持ってる?」
心臓が飛び出しそうになった。
持ってる。
何か連絡があったら困るからと、ポケットに入れてきた。
だけど頭でずっと鳴っているのは多分危険信号。
それに従うように、咄嗟に嘘をついた。
「いえあの、カバンにあるので今は……」
「じゃあ、後でそっちに行くから。人総だったよね」
そう言って、私を威圧していた体勢を崩し非常階段から出て行った。
「……何だったの今の」
小さな呟きは、非常階段という空間の広い静かな場所のせいか、妙に反響して。
私は自分の心臓の音さえ響いてしまっているんじゃないかと思って落ち着かなかった。