ポケットに婚約指輪

偽物と本物


 その後、私はコソコソと自分の部署に戻る。
すると、ばっちりメイクを直した風体の刈谷先輩がこちらを見た。


「あら、菫どこに行ってたの?」

「ちょっと一階のコンビニまで」

「何も買ってこなかったの?」

「あ、あは。なんかいいのが無くて」


どうして女同士はこんなに詮索好きなのだろう。

どうでもいいと思う。
同僚が昼休みにどこに行こうが勝手でしょう?


「コンビニ行くなら声かけてよね。私、新製品探しとか好きだから」

「そうですね。次回はそうします」


曖昧に答えてデスクに戻る。
メールをチェックすると、一通新着があった。


【件名:お疲れ様です】


いかにも仕事のようなメールではあったが、アドレスがおかしい。

このアドレスは知ってる。知り尽くしてる。
彼の。……舞波さんの携帯電話のアドレスだ。

< 28 / 258 >

この作品をシェア

pagetop