ポケットに婚約指輪

「舞波さん」

「おいで」


 階段をのぼる間に交わされた言葉はそれだけ。
私を部屋に入れると、彼はすぐ鍵を閉めた。

 ガチャン、という音がまるで起爆剤だったみたいに、彼の動きが変わる。

強引に腕を引っぱられ、まだちゃんと脱いでいなかった私のパンプスはその場に転がった。

腰を抱かれると同時に唇が塞がれ、驚いているうちに上着が剥ぎ取られる。

真っ暗なままの部屋は、カーテンの色さえわからない。
移動しているうちに、何かを踏みつけたような気もする。

彼はそのまま、私をべットに押し倒した。

スプリングの反動を背中に感じた。
自分がベッドに倒れた時と、彼が私の顔の脇に腕をついた時と、二回。


「ずっと見てたでしょ?」


そう問う彼の表情に泣きたくなる。

そうよ、見てた。
知られてないと思ってたのに、貴方は知っていたの?


「俺の事好き?」


吐き出される息がお酒臭い。

酔っているからこんなことするの?
それとも私のこと、少しは気にしてくれていたの?


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