ポケットに婚約指輪

そう思う一方で期待もしていた。

もし、彼が本気だったら?
今時成田離婚なんて珍しいものじゃない。

彼だってわかったはず。
江里子のわがままにこれから先一生付き合うことの大変さを。

だから、私に助けを求めてきたんでしょ?

私は彼を癒せる。
だって彼がそういい続けたんだもの。

『菫はいい奥さんになるな』

癒してあげたなら、本気で愛してくれる?



 突然の衝動に、ポケットを探り出す。

携帯のメモリーから彼の電話番号は消せなかった。
それは仕事上の連絡もあったからだけど。

これで呼びかければ。
もしかしたら戻れるかもしれない。

期待は勢い良く膨らみ続け、衝動を後押しする。


スカートのポケットは入れ口が小さい。
携帯電話を取り出そうとした瞬間、一緒に指輪のケースが転げ落ちた。


「……」


一瞬、時が止まったように感じた。
現実がこぼれ落ちた。そんな感じ。


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