ポケットに婚約指輪
「……あ、いた! 塚本さん」
いやぁ、来ないで!
刈谷先輩の前で、貴方とお知り合いなのはアピールしたくないのに!
しかも、今はこんな顔なんだから誰にも会いたくない。
「ちょ、菫。どうして里中くんと知り合い?」
「あ……」
「さっきの話の続き。今は、……持ってるね、携帯」
資料とともに手の内にある電話を見られてしまっては、反論のしようもない。
「番号交換しようか」
ゆるく笑う里中さん。後ろにいる刈谷先輩の気配が怖い。
「あ、あの」
私から飛び出すのは掠れた声。
そういえば泣いてから、マトモに誰とも話してなかった。
「……塚本さん?」
疑問気な口調とともに、里中さんが勢いよく私が持ってる書類を掴む。
「きゃっ」
一瞬で瞼を確認される。
「ちょっとこっち」
里中さんは、すぐに私の腕を掴むと廊下へと引っ張りだした。