ポケットに婚約指輪
刈谷先輩は不機嫌さを隠そうともしない。
これ以上追求されると苦しい。
全部すっきり言ってしまえばいい?
でもそうすればおのずと舞波さんとの関係まで伝えなきゃいけなる。
そんなことしたら終わりだ。
舞波さんと江里子の関係だけじゃなく、自分の立場も危うい。
「里中さんは、気を使って今度食事でもって言ってくださって。それだけです」
「何で拾った里中くんが誘わなきゃならないのよ」
「それは……、実は拾ってくれたのを受け取る時にうっかりぶつかってそれが川に落ちてしまったものだから。
気にしないでくださいって言ったんですけど。里中さんが気にしちゃって」
多少事実は省いたものの、案外と筋の通る理由が出来上がった。
私は内心ほっとして、メイク直しを続ける。
「なんだそっか。だから食事なのか」
あからさまに、刈谷先輩の機嫌が直る。