ポケットに婚約指輪
「だったら二人きりより人数がいたほうがいいんじゃない? 菫だってほら、指輪の彼に悪いでしょ?
里中くんだって一度食事おごればきっとすっきりするだろうし。そうよ、私が付き合ってあげるから、3人行きましょ?」
しかもものすごい理論でもって、自分も一緒に行く算段をする辺りが凄い。
さすが人総の肉食系代表。
「そ、そうですね」
「私から里中くんに言っておくわね。私を仲介役にすれば菫も電話番号とか教えなくて済むでしょ。じゃあ、菫は目を大事にして。しばらく不在でもごまかしておくから大丈夫よ」
急に甲斐甲斐しくなって先輩は化粧室から出て行く。
あの刈谷先輩にずっと目をつけられていて、今まで陥落しなかった里中さんに若干尊敬の念が芽生える。
私にはそんなこと無理だ。
「……ふう」
ため息一つ。
先輩といると、自分の言いたいことの半分も伝えられない。
でもそれを変える勇気も無い。
彼女の作る流れに乗って、ただ静かにおぼれないように息をするしか。