ポケットに婚約指輪

「自惚れないでください」


組み敷かれながら、せめてもの反論のようにそう答える。

嬉しかったけど、それを口には出来ない。

だって、江里子は私の友人だ。
同期入社で、部署は違っても時々一緒に食事する間柄だった。

とはいえ親友というほど親しいものではなかった。

江里子には友人が一杯いたのだ。
それは、江里子が重役の娘だったことにも由来している。

彼女と仲良くして間違いはないから。
そんな空気は、同僚の中では常に漂っていた。


それでも、友人の彼を寝取ってはいけないと思えるくらいの友情は持っていたつもりだったのに。


私は恋に落ちた。

いけないと思っていた恋に。
片思いで終わるはずの恋に。



「塚……いや菫(すみれ)。綺麗だよ、とっても」

「……舞波さん」

「好きだよ」


お酒とはこんなに怖いものだったんだろうか。
酔いの勢いで、意外なほどあっさりと彼は私を抱いた。


江里子のことはいいの?

そう聞かなかった、私が悪いのか。

愛人になるのはイヤ。

そう言えなかった私が悪いのか。


とにかく、私と彼は関係を持ってしまった。
江里子には言えない、ヒミツの関係を。

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