ポケットに婚約指輪
会社を出てからしばらくすると、背中を叩かれた。
「塚本さんてば。何度も呼んだのに」
「え?」
振り向くとそこには里中さんが息を切らして立っていた。
「里中さん」
「もう帰るの? 早いね」
「里中さんこそ」
「俺は違うよ。たまたま一階のコンビニを出たら君が歩いてたから追いかけてきただけ。今から会社に戻るところだったんだ」
そうなんだ。もう直帰してもいいような時間なのに。
そんなに仕事が溜まっているのかしら。
「いや、大変だったよ。昼は」
「え?」
「刈谷さん、ちょっとしつこいからさ」
「ああ。すみません」
私が謝る筋合いのことなのかしら。
そう思うけど、反射で謝ってしまう。
揉め事を作りたくない私の性分だ。