ポケットに婚約指輪


 その夜、翌日の服を決めかねてベッドの上に広げているとメールが届く。

発信者を見てギクリとする。舞波さんだ。
どうして?


【結婚式来てくれてありがとう】


そんな題名。
一見して、送られておかしい内容ではない。
それは江里子対策?

内容を確認して唖然とする。


【いつ雨がふるかも分からないここにいると気が休まりません。
日本の穏やかな気候が恋しくなります。やはり僕にはそちらのほうがあっているのかも知れません。

戻ったら仕事の進捗について打ち合わせしましょう】



「……っ」


時差があるはずだから、今は舞波さんのいる辺りは午前中?
江里子と一緒に旅行しながら、こんなメールを出すの?


深読みしようと思えば、いくらでも出来るような内容。
ただの気まぐれがそう言ってると分かっているのに、反応する私の心臓が悔しい。

忘れたいのよ。
私は不倫なんかしたくない。
愛人なんてイヤ。

なのに揺さぶられる。こんなにも簡単に。

別れてくれるなら。
江里子と別れてくれるなら、それまでの間なら、愛人でもいい?

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