ポケットに婚約指輪
「やっぱり具合悪そうだね。もうちょっと休んだ方がいいね」
里中さんは会計をしながら、私の二の腕の辺りをつかんでそう言った。
「美亜ちゃん、彼女少し休ませてもらってもいい?」
そう、ウェイトレスさんに言う。
この綺麗な人の名前は美亜さんっていうのか。
「構いませんけど、里中さんはどうなさるんです?」
「俺は彼女送ってくるから。また来るよ」
そういって刈谷先輩の背中を押す。
刈谷先輩の表情は読めない。
二人きりになれることを喜んでいるのか、それとも、後でこっちに戻ってくることに対して苛立っているのか。
美亜さんが、私の肩をつかんでカウンターの席に座らせてくれたので、私は二人に頭を下げた。
「すいません、刈谷さん」
「別にいいけど。私が送っていこうか? 菫」
「いえ、休めば大丈夫です。里中さんも……戻って来なくても大丈夫ですから。落ち着いたら帰ります」
刈谷先輩の手前、そう言ったけど。
私は彼が戻ってきてくれることを期待していた。