ポケットに婚約指輪
「何も……ないです。見返せてもいない。私はもうとっくに振られてるんだし」
「ふうん。どうして振られたの?」
「そんなこと聞きます?」
あまりにも容赦のない突っ込みに思わず反論が出てしまう。
「だって気になるし。君のようなタイプの女の子は遊びでは付き合わないだろ? 男の方だって、本気じゃなきゃ付き合わないと思う」
「そんな……」
そんなことはない。
実際、私は遊ばれていたのだろうと思う。
私だって、彼に江里子がいるのを知ってて付き合った。
里中さんの中で、私がどんな人格に映っているのかは知らないけど、私はそんなにお綺麗な女じゃない。
「イメージで決め付けないでください。私はそんなに真面目でも貞淑でもないです」
「貞淑ときたか。じゃあ何? その真逆を行くなら浮気でもした? それとも、されてて別れた……かな?」
「……っ」
真実に近づかれると言葉が思いつかなくなる。
息を飲み込んで黙ると、里中さんはコーヒーを一口飲んで話の方向を少しだけ変えた。