ポケットに婚約指輪

「ひどい! 落ち込んだフリするなんて」

「はは、いやごめん。素直だね、塚本さん。
それに、落ち込んだのはホントだから、慰めてくれて嬉しいよ」

「……っ」

嬉しいよ、とか。
そんな言葉をさらりと言えるこの人は何なんだろう。

真っ赤になった私の頬に、彼の手が伸びてきて凄く驚いた。
一瞬身を引くと、彼の手は頬の一箇所を拭うように触ってすぐに離れる。


「君を振った男は馬鹿だね。君みたいな人が、本当はちゃんと愛情をくれるのに」

「そ、そんなこと……ありません」

「へぇ? じゃあ、愛してないのにいまだに苦しいの?」

「違います!」


混乱してくる。
こんな風に、私の気持ちに深く突っ込んでくる人は今までいなかった。

いつだって、私は平凡で大人しくて扱いやすい女で。

誰にだって軽く扱われてきた。
そう、刈谷先輩だって、舞波さんだって、江里子だって。

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