ポケットに婚約指輪
鼻をすすっていると、里中さんがもう一度コーヒーを含んだ。
そして、ゆっくり笑うと私から少しずれた何もない空間を見つめる。
「俺の婚約者は2年間付き合った人だった。一目惚れでね。押しまくってようやくモノにした女性。でも彼女にはずっと好きな人がいたんだ。多分」
「そんな。それは酷くないですか? 好きな人がいるなら里中さんと付き合うべきじゃないのに」
「本来ならね。だけど彼女が好きだったのは義理の兄貴で。……好きって自覚もしていなかったのかも知れない。ただ、結婚を持ちかけた途端に気づいたんだろうね。順風満帆だったはずの俺たちの関係は簡単に崩れた」
視線が、手元に変わる。とんとんと指でテーブルを叩く仕草。何かを急き立てているような。
「それで、まあ俺とは破局。結構押したけどね。自分の気持ちに嘘はつけなかったんだろう」
「そんな」