ポケットに婚約指輪


「それでいいじゃん。悪い女だった、悪い恋をした、で。悪いと思ってるなら引きずることないよ。終わりにしよう?」

「え?」

「忘れられないのには、忘れられないだけの理由があるはずだ。それが君の罪悪感だとしたらこれで終わり。悪い女だったって認めて終わりにすればいい」


里中さんの言葉が、胸にストンと落ちる。
もやもやしていた感情が、磁力に引き寄せられる蹉跌のようにそこに凝縮されていく。


「それでも忘れられないなら、君は彼にまだ未練があるんだ。その時は仕方ない。気持ちが消えるまで苦しむしかない」

「……里中さん」

「俺はそうだったんだよ。だから指輪もずっと持ち歩いてた。ずっと彼女に未練があった」


鞄の中で、輝きをケースに隠したその指輪。
光り輝いているのは彼の美しいほどの愛情。


「でも手放したじゃないですか」

「うん。そうだね。あれは実は、神様がくれたチャンスなんじゃないかと思ったんだよ」


そう言って笑った顔はいたずらの色を持っていて。
そんな表情を見るのは初めてだったから、心臓が飛び出しそうになった。

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