ポケットに婚約指輪
「チャンスって」
「変わるチャンス? 指輪を落とした人に指輪を渡すのなら、指輪は無駄になるわけじゃない。……俺は多分、彼女への感情がすべて無駄だったとは思いたくないんだな」
ふわり頭を撫でられて、彼から目が離せなくなる。
「だから貰ってよ。捨ててくれてもいいから」
「……っ、捨てれません、てば」
胸が熱くて、苦しい。
別に自分が好きだといわれているわけでもないのに、何でこんなに胸がドキドキするの。
「貰っていいんですか」
「うん」
「もう返しませんよ」
「いいよ。その代わりたまにまた食事に行こうよ」
「え?」
「俺たち二人ともリハビリが必要じゃない? 一人になるとつい考えちゃうだろ、昔の相手を。だから」
その問いに、私は縦に首を振ることで返事した。
里中さんは笑うと、「じゃあ帰ろうか」と伝票を持ち上げる。
時間的には電車が走っている時間だ。
酔いもさめたし、乗って帰れそう。