ポケットに婚約指輪
忘れられない
今度は私から
【今家に着きました。今日はごちそうさまでした】
【どういたしまして。今週末どっちか空いてる? どこか行こうか】
夜に交わされたそんなメール。
返事はまだしていない。
「ふう」
鏡に向かっての中でメイクチェック。久しぶりにしっかりとメイクをしてきたから、目元の崩れが心配だ。
最後に口紅を引き直すと、後ろから声をかけられる。
「おはよ、菫」
「……刈谷先輩」
心臓が止まりそうになった。なんとなく凄みがあって怖いというか。
「昨日、里中くんアンタのとこ戻ったんでしょ? どうなったの」
「どうって。駅まで送ってもらって帰りました」
刈谷先輩はじっとりした目つきで私を見る。
「それだけ?」
「……それだけです」
嘘を見抜こうとしているのか刈谷先輩の視線は鋭い。
根負けしたのは私の方で、うつむいて目を逸らしてしまった。