ポケットに婚約指輪
「昨日、すみませんでした。私酔っちゃって」
「そうね。お詫びに今度は菫がおごってみたら、私と里中くんに」
「え? あ、そ、そうですね」
いきなり何を言い出すんだろう。
戸惑いつつ頷けば、ようやくにっこりと笑った。
「じゃあ頼むわよ。話つけといて」
「……はあ」
先ほどとは打って変わって明るい調子で消えていく刈谷先輩。
途方に暮れるのは私だ。
そんな理由で、食事に誘うの?
しかもまた刈谷先輩まで一緒に?
すぐに断れない自分に嫌気がさす。
とぼとぼと自分のデスクに戻るとそこには印刷待ちの大量の書類。
会議で使うものらしく必要部数は30部とある。
どうしてこれが私の仕事なの?
新人なんて他にもいるじゃない。
「菫、頼むわね」
「……はい」
刈谷さんに逆らうのはこういうことだと暗に言われているようだ。