ポケットに婚約指輪
その日のお昼休み、営業一課は相変わらずの閑散状態。
里中さんはいるかしら。
残っている数名の顔を次々チェックして行くけれど、目当ての顔は見当たらない。
仕方ない。メールで誘ってみるか。
また刈谷先輩も交えるのは気が重いけど、結局私は彼女には逆らえない。
この間、里中さんに引っ張り込まれた非常階段へ行き、階段に座る。
お尻から冷えが伝わってきて思わず身を縮こませる。
【昨日は醜態見せて済みませんでした。
お詫びといっては何ですが、今度は私がご馳走しますので、お食事でもいきませんか?】
「……刈谷先輩も一緒に」
入れなきゃいけない言葉を口に出すと、じわり涙が滲んできた。
どうして私、こんななんだろう。
自分の言いたいこと、ちゃんと言えなくて。
頭で駄目だと分かってても振り切ることさえできなくて。
そして、かすかに見えた希望のようなものも、先輩の圧力の強さに押しつぶされる。
ひとしきり泣いた後、私は文面の最後に【刈谷先輩も一緒に】と追加し、送信した。
「……誰か助け出して」
小さな願いは誰にも届かない。
世界で一番孤独になったような、そんな気がした。