ポケットに婚約指輪
泣きたい気持ちを堪えてトイレから出ると、人総の入り口に近いあたりに男の人の姿が見えた。
彼は私が近づくと、無表情のまま近づいてくる。
どうしたらいいのか分からず、私は俯いたまま立ち尽くした。
「塚本さん」
「は、はい」
里中さんの声。
無視される程には怒られていないことにほっとする。
「俺の返事を先に貰いたいんだけどね」
「は?」
「昨晩したでしょ。メール。順番守るのも社会人のルールじゃない?」
「あの」
だから、今回の誘いはあの返事のつもりで書いたのに。
「俺はあのメール、二人きりのつもりで書いたんだけど?」
畳み掛けるように、彼の言葉が降ってくる。
「……週末なんてどちらも空いてます。でも、私が一緒にいても、きっと里中さんを楽しませられないです」
「どうして俺が楽しむか楽しまないかを君が決めるの? リハビリって言ったじゃん。別に無理に楽しもうなんて思ってないよ?」
「でも」