ポケットに婚約指輪
煮え切らない自分が酷く嫌になる。
里中さんといるのは楽しい。
特別な気分になれるし、一緒にいる間は舞波さんのことを思い出さなくて済む。いつか、本気で好きになれるかもしれない。
だけど、里中さんを好きになるということは刈谷先輩を敵に回すということだ。
この会社でこの部署でやっていくのには、それはきつ過ぎる。
私がずっと俯いていると、頭の上からため息が落ちてくる。
正面を向くと里中さんのネクタイがすぐ近くに見えた。
いつの間にか距離が近い。
とても会社で人がすれ違う時の距離ではない。
「じゃあこう言えばいいかな? あの誘いを断るって言うなら、俺もさっきの誘いは断る」
「え?」
「どうせ困ってんでしょ? 刈谷さんから俺も誘えって言われて」
図星を指されて言葉が出なくなる。
私と先輩の関係が召し使いと女王のそれを同じことを、彼はこの数日ですっかり見抜いてしまっているらしい。
「週末に色々相談にのってあげられるけど?」
「……はい」
半分脅しのようになった誘いに、素直に頷く。
彼が私の方向性を決めてくれたことに、心底感謝しながら。
「じゃあ、またメールするから」
ポンと叩かれた肩に心臓まで跳ねる。
恋に落ちてしまいそうな自分には、どうやったらストップをかけれるんだろう。