ポケットに婚約指輪

だけど、そういえばしばらく映画にも行っていない。

舞波さんと付き合っていた時は外出なんてほとんどしなかった。

いつだって、誰かに見つかることにおびえて。

そして部屋ですることなんてそんなにたくさんある訳でもなく。
いつしか体を重ねることばかりになった。

それが愛されている証だと思っていた。

不満なんて口にしなかった。

普通のデートができないことも、仕方ないことなんだって思い込んでて。


思えば、なんて現実離れした関係だったんだろう。
それに気付かなかった私も相当の夢見がちだ。



「じゃあ、刈谷さん交えての食事は水曜で。そこなら予定空いてるから」


手帳に書き込む姿をちらりと見ると、びっしり予定が詰まっている。
週末くらい休みたいんじゃないのかしら、なんて余計な気遣いまで生まれてくるけど。


「何?」

「いえ。お疲れかなって思って」

「なんで? そんなに疲れてそう?」

「いえ。予定、びっしりそうだから」

「見えた? まあ仕事関係、営業だからね。そこは色々有るでしょ」


なのに、本当に見たくもない映画になんか付きあわせていいのかしらなんて思ってしまう。

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