ポケットに婚約指輪
あと少しで電車の駅というところで、足の痛みに顔をしかめる。
普段はせいぜい三センチのパンプスしか履かない私には、七センチのピンヒールは歩きづらく、よたよたしているから何だかヒヨコのような感じがする。
もっと颯爽と、格好いいモデルみたいに歩きたいのに。
そう思いながら立ち止まると、そこは丁度小さな橋の上だった。
都会を流れる小さな川は、両岸の華やかさとは対照的にそこだけが暗く沈んでいる。
思わず立ち止まって、その欄干に寄りかかり景色を眺めた。
周りを囲む高層ビルやコンビニがきらびやかに光っている。
川の上だけは何も建てることができないから、きっと空から見たら、ここだけ線でも引かれたようにみえるんだろう。
「ふう」
今日は私だって、とびきりきらびやかなはずだ。
パールイエローの流れるようなラインのワンピース。
小さな真珠をあしらった、揃いのピアスとネックレス。
結いあげた髪にも、小さな真珠飾り。
そして右手の薬指には、きらりと輝く指輪。