ポケットに婚約指輪

その主人公が凄く可愛かった。

レストランのガラスに張り付いて、物欲しそうな顔で食品サンプルを見たり。
ついついで手を出したお菓子を、気付いたら空にしてしまっていたり。
上手くできない自分に何度も泣いて、でもまた頑張ろうとして。

それを見ていた彼が、ついにダイエットの手伝いまでし始めて。


結局彼女は痩せられなかったんだけど、彼は言うの。


『痩せられないって泣いてるお前より、デブでも笑ってるお前の方が良いって気付いたんだから仕方ない』


ありのままを愛してもらえる主人公が単純に羨ましくて。
とても楽しいコメディだった筈なのに、涙が浮かんできた。

ああ、いいな。
こんな恋がしたい。



夢中になって画面を見ている私の左の手の甲を、里中さんの指がつんつんとつつく。

なんだろうと思って横を見ると、ハンカチが差し出されていて。
私は、恥ずかしくなりながらそれを受け取った。



こんな恋がしたい。
里中さんもそう思いますか?

私は、それをあなたとしたいと、心の奥底で思ってしまっている。

もしかしたら恋は、もう始まっているのかもしれない。


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