ポケットに婚約指輪
一瞬思考が止まる。
舞波さんのメイン担当は採用関係だ。
事務や雑務を請け負う私が引き継ぐようなことはそんなに無いと思うのだけど。
「……私と、ですか?」
「いや、皆とだよ?」
全員と一気に引継ぎをするということか。
納得した途端に焦りが生じる。
もしかしたら変な期待をしているように思われたかしら。
「じゃあ後で」
だけど、予想外なほどさらりと受け流して舞波さんは自分のデスクに戻っていく。
意味深なお土産は貰いつつも、メールのことも何も言わなかったし、もしかしたら私が深読みしすぎただけなのかもしれない。
「菫ー。里中君から連絡あったー?」
「あ、はい。水曜日の夕食でって。大丈夫ですよね、刈谷先輩」
「用事あったって空けるわよ。連絡ついたらすぐメールしてよね。ホントどんくさい」
「はあ、すいません」
刈谷先輩の嫌味も、今日はなんだか聞き流せる。
少し心に余裕が出てきたのかもしれない。