好きと言えるその日まで
 「花は、ない……」


 暗号のようなその言葉を呟いてから、ようやく思い出した。



 卒業式のあの日。


 私は先輩に花を贈った。


 それは、昔から私の中学にある伝統行事のようなもので、在校生に1輪ずつ花が配られる。

 
 それを自分の尊敬し、お世話になった先輩へのお礼として渡す、というものなんだけれど。


 それには裏ジンクスがあって。


 受け取った先輩から(相手が異性の場合限定だけど)、先輩の胸ポケットに差した花を逆に返して貰えると二人は結ばれるっていう、乙女らしいもの。


 けれど私が尚人先輩に渡したとき、先輩は困ったように笑っただけでポケットの花をくれることはなかった。


 勿論私も―――下さいなんて言えるほどの余裕はなくて。


 ただ自分の花を押し付けて頭を下げて、走り去ったんだ。


 だから、もしかして……


 あの時の、お返し?



 って、思ったら嬉しくてきゅうって胸が鳴った気がした。


 手には、先輩に押し付けられたメモと、投げられたシャーペン。


 どれも、私のために、くれたモノ。
< 42 / 72 >

この作品をシェア

pagetop