好きと言えるその日まで


 強引かと思えばものすごく謙虚な奴で、勝手に俺のテリトリーにスルリと入り込んできた葛西。


 だけどこれ以上、この距離を縮めることも遠ざけることも嫌で今の距離をセーブしている。


 アイツは馬鹿だから……いや、俺に気を遣ってるんだろうが。


 あれからは好きだとかなんだとか、俺が困るようなことは一つも言わない。


 馴れ馴れしく体に触れるようなこともしない。


 隣を歩いていても、明らかに10センチは距離を保ってやがる。


 時々一生懸命小石を蹴ってる姿が笑えて、横で笑ってやるといつも恥ずかしそうに笑っている。


 だけど止めないアイツが面白い。


 面白いと思うけど、それが好きと言う感情に繋がるのかと言えばYESとは言い難い。


 可愛くないと言えば嘘になる。


 気にならないと言えば、答えはNOだ。


 けれど手を伸ばしそうになって、寸でのところで手の平が拳を握る。


 意地を張ってるわけじゃない。


 ただ、どのタイミングでそうすればいいのか見えなくて。


 差し出した手を掴んでもらえなかったらと思うと不安で。


 もしかして、もう俺への興味なんてないんじゃないかと思えて仕方なくて。


 気持ちの定まらないまま、笑う葛西の顔を潰したくなくて。


 おやすみと共に送られてくる葛西の日常を綴ったメールに安堵しながら、ただおやすみとだけ送って携帯を閉じた。


 メールだけは送れと言いながら、俺からは大した返事もしない。


 けれど、これだけは止めて欲しくなくてつまらない独占欲が顔を出す。


 これは―――ただの先輩として、許される独占欲の範囲なんだろうか……


 モヤモヤしながら俺は瞼を閉じた。


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