好きと言えるその日まで
 *


 『駅前で待て』



 とは送ったものの、どっちの駅なんだよと後になって自分にツッコミながら慌てて教室を出た。


 アイツが電車に乗った後なら、家の方の駅前と思ってるかもしれない。


 けど送信し直ししてる間に間に、アイツの足に間に合うか……と適当な気持ちの方が勝って、ただ走り出した。


 「うぃー、尚人おつかれー。って、なんだ急ぎか?」

 「あー……ちょい、な。悪い」

 
 友達からの何か言いたげな声を、適当に聞き流して走る。

  
 なんで葛西のために、俺走ってんの? とか思わないでもないが。


 まぁ待たしちゃ悪いと思うのは、人間の道理だろ。


 何気に速足ぐらいにペースを落とそうとする自分が居るのにもかかわらず、やっぱり気が付けば靴底が強く地面を蹴っている。


 そんな自分にアホだなと思いながらも、結局いつもより早くに駅に辿りついた。


 ―――あーあ、アイツあんなに嬉しそうに待ってるし。


 馬鹿だなぁとか思いつつ苦笑しながら、5メートルの距離をゆっくり縮めようと数歩踏み出したら……


 さっと知らない奴が割り込んできて、葛西に話しかけた。


 話しかけられて顔を上げた葛西が、一瞬驚いた表情を見せた後笑みを浮かべる。


 同じ制服で、あまり汚れもないところを見たら、一年だろう。


 葛西同じクラスの奴か?


 折角到着したけどアイツがニコニコしながら話し始めたのを見て、残る3メートルの距離を縮めるのをやめて柱に隠れた。


 ―――何してんだ? 俺。


 話してる内容までは聞こえないが、葛西がくすくすと笑う声だけが妙に響いて聞こえる。


 それを聞きながら、ふぅ……と息を吐いて俺は柱にもたれた。


 なんとなく出るタイミングを失った気がする。


 待たせておいて、さらに待たせるってどうなんだ? とか思う反面、一瞬見えた自然に笑う葛西の顔に痛みを覚えた。


 アイツ、俺の前ではあんなふうに笑わないよなーなんて。


 いつも恥ずかしそうっていうか、隠してると言うか、笑顔らしい笑顔を見せない気がする。


 そんなことに気が付いたらモヤモヤしてきて……こんな気持ちのままアイツの前に出られないと思いながら、ポケットに手を突っ込んだ。


 突っ込んだ指先にアイツから貰ったパイン飴が触れて、ふっと笑いながら取り出して飴を口に放り込んだ。


 

 ―――今日はなんだか、甘さが足りない。



 *
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