好きと言えるその日まで
 ―――遅い、気がする。


 と思い始めたのは、坂井君と話し始めて5分経過したころ……彼の背中越しに見える時計が目に入ってからだった。


 尚人先輩が来たのかと顔を上げたら違ったことに驚いたものの、話し上手な坂井君に笑わせてもらいながら、うっかり話し込んじゃった。


 尚人先輩を待ってたんだってことを忘れそうになってた矢先、坂井君に『葛西ってどっち方面だっけ?』と聞かれてハッとした。


 それでようやく時計に目がいくだなんて私って馬鹿だなって思いながら、半分意識が遠のきながら坂井君に生返事をする。


 どうしよう……尚人先輩、もしかして私のこと見つけらんないとか?


 っていうか、この駅の前で待つってことだよね?


 ―――それより私、先輩に返事返してないじゃん!!




 「おい、葛西っ?」

 「うわぁっ! は、はいっ」

 「ぶはっ、お前慌てすぎだろ」
  
 「へっ!? あ、いやっ」

 「で、どうする?」

 「何が?」

 「いやだから、一緒に帰らね?」


 どうやら尚人先輩のことを考えてる間に話が進んでたみたいだ。


 ってか、一緒に帰らない? ……って、坂井君と私が??

 
 どうしよう。


 私、尚人先輩待ってるし、そんなこと言われても困る―――


 「あ、ほら電車来るって。行こうぜ!」

 「わわっ、さ、坂井くんっ待……っ」


 足を踏み留めている私の腕を強引に掴んで、改札の方に向いて引っ張った。
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