好きと言えるその日まで
 ―――なんでか分かんないけど、先輩、怒ってるよね?


 ちらりと斜め上を見上げて見たものの、先輩の視線は一向にコチラを向く気配はなくて、まだ来ない線路の先を見つめて……と言うより睨みつけていた。

 
 なんか、嫌なことでもあったんだろうか?


 もしかして、坂井君のこと知ってたのかな?


 ま、まさか! 嫌いだったりする!?


 ……って、そんな幼稚な人じゃないよね。


 じゃあ考えられることと言えば……あ、そうだ。


 私、大変な失態をしてるじゃんかっ!


 「せ、先輩! す、すみ、すみませんっっ!!」

 「はぁ?」


 頭を深く下げて先輩に謝罪をして顔を上げると、苛立ったような表情で見つめられていた。


 今さらってこと? 

 
 いやでも、こんなことで機嫌悪くさせてるなんて困る。


 「あ、あの、メールっ」

 「メール?」

 「返事! 返事を、してなくて、その……」

 「あぁ……別に」


 別に!?


 別にって何!?


 先輩、ココは一つ私のために詳しく教えて下さいよっ。


 「別にって。先輩、だって怒ってるんじゃ」

 「怒る? 俺、怒ってないけど」

 「だ、だって機嫌わる」「電車来たぞ」


 ひゃ……っ!


 思わず声に出そうになった。


 また先輩が私の腕を無理やり掴んで、ドアの中に入っていくから。


 急なことに、こけないように気を付けながら車内に入ると、今度はぱっと手を離された。


 それはそれでちょっと寂しいなーなんて。


 軽くなった腕を見つめていたら、ドスッと音を立ててガラガラな車内の椅子に先輩が座った。


 先輩が座るなんて、珍しい―――


 なんてあんまり一緒に帰ったこともないのにそんなことを思いつつ。


 私は先輩から10センチほどの距離を置いて、そっと横に座った。 
< 50 / 72 >

この作品をシェア

pagetop