好きと言えるその日まで

　それから。


　卒業式最後の日に『ありがとう』って少しだけ困ったように笑った姿だけ。




　私の通った中学校の伝統で、卒業生に１輪だけ花を贈る。

　
　というものがある。


　もらえない人もいるだろうから、その伝統を無くそうなんて動きも何度もあった見たいだけど……


　憧れの先輩に近づく最後のチャンスを無くすなんてダメだって言う反対派によって、長い間取り入れられている伝統だ。


　在校生はみんな１輪の花を持って、一人にだけ花を贈る。


　そして、卒業する先輩が胸に刺す小さな花を貰えたら……二人は結ばれる、何てジンクス付きの伝統。


　まるで結婚式みたいなその伝統は、女子生徒なら憧れて止まないものだったりする。


　例にもれず、あこがれ続けた私は迷いなく先輩に花を贈った。


　そしてただ―――ありがとう―――って。


　初めて見た、困ったような笑顔付きでそう言ってもらった。