赤き月の調べ
「大丈夫よ、一人で帰れる。もし何かあったら、椿に電話するし」
彼は過保護と言ってもいいほど、何よりも希空を優先した生活を今まで送ってきた。
子どもの頃ならわかるけど、大人になった今ではありえない。
お荷物になりたくなくて、希空は心配させないように笑顔をつくった。
「本当だな? 何かあったとしても、絶対に一人で解決しようと思うなよ」
明らかに信用していない。
「あのね。あたしは今年で二十五歳よ。いい加減、一人で大丈夫なようにならなくちゃ……ほら、はやく行って」
メールではなく電話をよこしたということは、緊急の内容であることは予想できる。
親しい相手だろうが、待たせるのはよくない。