赤き月の調べ



 希空は追い払うように手を振って、仕事場である店へと歩き出した。


「望空!」


 何事かと振り返ると、車に乗り込みシートベルトを着ける途中の状態の狼が、窓を開けていた。


「忘れず、造血剤は持ったか? 鉄分補給飲料も」


「忘れずに持ったし、ちゃんと飲むから……早く行って!」


「ああ。ちゃんと飲めよ。じゃあな」


 ようやく狼は、愛車であるジープを発進させた。


 いつも理由をつけては、希空が建物に入るまで、狼は決してエンジンすらかけない。


 今夜は、いつもとは逆だ。


 ジープが市道に出て、スピードを出して走り去るまで、希空は見つめていた。



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