赤き月の調べ
第1夜 はじまりの夜
[1]
温かい車の中から、霧島希空は夜の闇を見つめていた。
すでに夜も遅く、明かりが点いているのはコンビニか、二十四時間営業のスーパーくらいしかない。
高くそびえ立つ都心のマンションも、窓に明かりがないからか怪物の大きな影に見える。
ほとんどの人は、眠りについている時間だからしかたがない。
そんなことを考えながら、何度目になるか分からない欠伸を噛み殺していると、車がゆっくりと曲がるのが振動で伝わってきた。
「着いたぞ」
「あ……うん。ありがとう」
シートベルトを外し助手席から降りて、希空は後部座席に置いていた鞄を手に取った。
「送ってくれて、ありがとう。帰りの運転も気を付けてね」
「ああ。お前も……」
運転席からわざわざ降りた兄――霧島狼は、身ぶりで希空に待つように示すと、ポケットから携帯電話を取り出した。