甘い蜜
冷たい横顔
「雅ちゃん、指名だよ」
あたしの源氏名、雅(みやび)を呼ぶ黒服の声。
ーーー3人目の指名客だ。
吸っていた煙草を灰皿に押し付け、グロスを塗り直す。
香水をかけ甘い香りを身につけると、ロングドレスの裾をひきながら待機室を出た。
その先には、無数の光によって怪しく光る広いフロア。
中央には、一際目をひくシャンデリアディスプレイ。
聞こえるのはBGMと、女の子とお客の笑い声。
見慣れた店内は、週末ということもあり混み合っていた。
黒服が案内した先はVIP ROOM。
扉を開けるとスーツを着た男が3人。
真ん中に座った男が手をあげた。
「よう、雅」
「拓朗、指名ありがとう」
にっこり笑って、あたしの指名客である拓朗の隣に座った。
連れの男2人にも女の子がつき、酒が運ばれ、乾杯。
ボトルの中の酒がみるみるうちに減り、尽きない笑話に盛り上がるVIP ROOM。
「雅、この後2人で飯行かない?」
こっそりあたしに耳打ちする拓朗。
ーーーアフターなんて行きたくない。
「まずは、乾杯。でしょ?」
タイミングよく運ばれてきたドンペリで、拓朗と2回目の乾杯をした。