僕が好きだった彼女
とくん。
 と、鼓動が聞こえた気がした。
 僕の中から。だけど、僕じゃない鼓動。
とくん。
 間違いない。今度ははっきりと聞こえた。
 なんといったらいいだろう。僕の中で、何かが目覚めようとしている、そんな感覚。
 僕ははっとした。
 僕の中に、彼女がいる。
とくん。
 小さな鼓動が、時々消えそうなくらい弱く、脈をうつ。
 僕がここにいるから、彼女の魂が出てこれないのだろう。そして、一つの身体に二つの魂は負担になるのだ。彼女の魂は弱っている。
 僕は鏡をみた。綺麗な顔。憧れの顔。大好きだった顔。僕の欲しかった女性。
とくん。
 身体の中で、小さな魂が脈をうっている。
 僕は鏡に写っている自分の顔に触れてみた。
 やっぱり、僕はこの人が好きだと思った。
 少し躊躇ったが、思い切って鏡にゆっくりと顔を近づけた。
 これくらい、いいだろ?僕は身体の中のもう一つの魂に言った。

 そして、僕は外に出た。

 
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