Dear...
「お疲れ!桜、すごい勢いで散ってるね。」

後ろから声をかけてきたのは、彼だった。私は咄嗟に、手のひらを上にしていた右手を不自然ではない位置に戻す。

「あ、お疲れー。綺麗だよね。本当に。」


本当に綺麗すぎて、切なくなる。戸惑う程に――泣きたくなる程に胸が締め付けられるのは、何故だろう。

「私、桜は好きだけど、今はあまり好きじゃないかも。」

「何で?すぐ散るから?」

「…何でかな。」


少し強い風が吹き、思わず髪を抑える。




私の手には、

桜の花びらが一枚握られていた。
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