Love Songを君に【Ansyalシリーズ TAKA編】
裕先生が
蓋を静かにあけると、
通常の鍵盤数よりも長い
鍵盤が広がっていて。
低音部の端に、
真っ黒い鍵盤が顔を覗かせている。
「唯ちゃん、これって」
思わぬ、代物の登場に
宮向井くんも私も絶句。
「ベ-ゼンドルファー・インペリアル」
二人声を揃えて、
そのピアノの名を紡ぐ。
「私の後輩が、
このピアノしか使わないので
ここにも設置したんですよ。
コンクールに向けてなら、
このピアノも触っておくほうが
いいですよね」
裕先生は、
にっこりと微笑んだ。
裕先生との会話を
続けている間に宮向井くんは、
そのピアノの前に早々と座ると、
その場でコンクールの曲を奏で始める。
「今日の夕方、
都合がつけられるので、
私も彼の練習を付き合いますよ。
唯香さんの退院祝いの前渡しがてら。
無理しない程度に、
ピアノ使ってください」
裕先生はそう言うと、
ホールを静かに出ていく。