ミラクルにいこう!
目の前のまひるにとってなんだかご都合のよすぎるような展開に、うれしい反面どちらも人を殺せる武器を持っているという事実をまひるは理解して、この場をどうしたらいいのか必死に考えた。


(王子様はたとえトムが負けても命は奪わないでトムだけをもとの世界へもどすと言ったわ。

トムが勝ったら2人をもとの世界へ返す約束・・・で。あれ?でも・・・なんか変じゃない?

2人が持っている武器は本物の剣でしょ。相手を殺せる・・・。
どうやって勝敗決められるの?
どっちも「まいった」なんて言いっこない状況よね。

試合用の武器だったとしても、どっちも「まいった」を言わなければ少なくとも相手が気絶してしまうまでは戦うってことでしょう・・・?


起きている限りは終わらない。
死ぬか、意識がない状態にならないと終わらない勝負・・・。


そして、私は・・・ここでは魔女。本当に魔法の使える魔法使い。

あっ!なんでこんなこと思いつかなかったの?
魔法で王子様を好きにしちゃえばいいじゃない。イヒヒヒ・・・)



いちおう頭の中が整理できたまひるが、王子の足をひっぱる魔法をかけてやろうと王子の方を見てみると・・・


王子は智房の剣を顔の真ん中に突き立てられんばかりの状況に陥っていた。



「うそっ・・・もう終わりなの!」


「俺の勝ちだ。いうことをきいてもらおうか。」


王子は声もあげられず、小さく頷くとすべてまひるたちの希望どおりの願いをきいてくれたのだった。


子どもたちはとにかくいったん、各家庭へともどし、まひろたちも元の世界へともどる準備が整ったとき、王子もまた旅支度のような姿をして立っていた。


「王子様、その格好どうしたんですか?」


「じつはね・・・僕もこの世界の住人じゃないんだ。
そろそろ、僕を元通りにしてくれる神様があらわれると思う。」



「か、神様ぁーーー?」


王子の言ったとおり、空が明るくなり、ピンクの光に変化してブロンドヘアの女神が空から降りてきた。


「おおーーーーー!すっごい美人だ。」


智房がそうつぶやくと、まひるは少しムッとした。

そして、女神は王子に声をかけた。


「コウキ。うまく王子の役目を終えたようですね。
あなたの優しさはよくわかりました。
しかし、これからは自分の世界で勇気もあわせもって生きていかないと、現実世界が色あせてしまいます。

それは勇者トムと剣を交えて感じることができましたか?」


「はい。彼がここまで強いとは思いませんでした。
まだまだ僕は心が弱いのだと思います。

女神様の教えとここでの体験をいかして、元の世界でがんばっていく所存です。ありがとうございました。」



女神はコウキがお礼の言葉を述べるとすぐに小さく唇を動かして、コウキの姿を消してしまった。


まひるはその様子に驚いて、

「王子様は?コウキさんはどうしちゃったんですか・・・?
もしかして殺したの・・・。」


「私は殺す力はない。
元の世界、あるべき世界へもどすのみ。

コウキはコウキの生きるべき世界で、自分の目標へと時間をすすめていく。

次はそなたたちの番・・・。

行く先は違えども、自分の道をあきらめず進めばよい。」



「ま、待ってください!行く先は違うってどういうことなんですか?」


「トム!あれ。・・・どうしてそっちに行くの?
私たちは同じところに帰らないと・・・どうして?

課長・・・智房さん!」



「まひる!強く思え。俺を強く思ってくれ!まひるーーー!」



女神は静かに動作を止めてその世界から消え去った。


智房とまひるは2つの光となり、左右へ飛び散って消えた。
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